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 第28回 食べることと話すこと (1)

英語では「細胞」をあらわすときに名詞としては cell を使います。これはラテン語で「小部屋・貯蔵室」を意味するケッラ cella に由来し、1665年にコルクの小片を顕微鏡で観察したイギリスの科学者ロバート・フックが命名したものです。本来の意味では、英語でも cellar という言葉はもとの意味を残していて、日本では「セラー」と言えばワインの貯蔵室などを指すのに用いられます。

ところで、単独で細胞を指す場合は cell を使いますが、生物学系の専門用語で複合語を作る場合は、接頭辞〈cyto-〉および接尾辞〈-cyte〉が使われます。こちらのほうは、ギリシャ語でやはり「小部屋・貯蔵室」を意味するキュトス cytos に由来します。たとえば、赤血球と白血球は医学用語では erythrocyte および leukocyte と言います。これは、ギリシャ語で「赤い」と「白い」を意味する形容詞エリュトゥロス erythros とレウコス leukos がそれぞれ〈-cyte〉と結合してできた言葉です。

ところで、細胞も有機体の最小構成単位として、それぞれが自身の外部環境と物質をやり取りしています。細胞膜によって隔てられた外部と内部のあいだでやり取りをするために、細胞はエクソサイトーシス exocytosis(開口分泌)とエンドサイトーシス endocytosis(飲食作用)という見事なメカニズムをもっています(図参照)。〈exo-〉と〈endo-〉というのは、それぞれギリシャ語で「内」と「外」を意味する前置詞エンドン endon とエクソ exo に由来する接頭辞です。両方の語尾に付いている〈-sis〉は、ギリシャ語で「行為・活動」をあらわす語尾で、「過程・活動」を意味する言葉(例、analysis)や、医学分野でも「病的状態」をあらわす言葉で多用されています。

endocytosis は「飲食作用」とも訳されるように、phagocytosis(食作用)と pinocytosis(飲作用)の二つに分類されます。〈phago-〉というのはギリシャ語で「食べる」を意味する動詞ファゲイン phagein に、〈pino-〉というのは同じくギリシャ語で「飲む」を意味するピネイン pinein に由来する接頭辞です。大まかに言って、基本的には言葉の通り、食作用は固形物を、飲作用は液体を取り込むことです。食作用は、体内に存在する遺物や病原体などを除去するための機構としても重要で、とくにそのための食作用を専門とする食細胞(貪食細胞)phagocyte が存在します。macrophage(大食細胞)は食細胞の代表で、もともとは microphage(小食細胞)と対の言葉でしたが、「小食細胞」はさまざまなリンパ球などに分類されて、この名称はあまりみられません。(続く)

 

参考文献:
『新英和大辞典』(研究社)
Wikipedia

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エクソサイトーシスとエンドサイトーシスの模式図