第9回:エコノミーとエコロジー(2)

今回は、語源から少し離れて、前回のエコノミーとエコロジーの問題に関連する書籍を紹介したいと思います。

浅田彰氏とともに、1980年代の日本のポストモダン思想(「ニューアカ」)を代表する論客とされ、現在も広範な知識と斬新な発想で著作を続けている中沢新一氏が、東日本大震災と福島原発事故の発生を受けて『日本の大転換』(集英社新書)という本を昨年8月に出しました。これは150ページほどの薄い本で、小冊子といってもいいくらいですが、中沢氏のこれまでの思索を背景に、原子力とエネルギーの問題について、歴史的な総括とこれからの展望に関する知見のエッセンスが詰め込まれています。

とはいっても、そのすべてをここで紹介するわけにはいきませんが、このブログの趣旨に関連する論点をいくつか取り上げてみようと思います。まず中沢氏は、エネルギーの問題が私たちの「実存」と深く関わっており、切り離せないことから、「地球科学と生態学と経済学と産業工学と社会学と哲学をひとつに結合した、新しい知の形態」の必要性を提案し、これを「エネルゴロジー Energology」と名付けています。

その観点から原子力エネルギーを見ると、原子力発電は人工的に起こした核分裂反応によるのですが、これは私たちの生きている地球上では、原則として自然に生じる現象ではありません。中沢氏は、この核分裂反応と太陽内で起こっている核融合反応とを合わせて「太陽圏」の物質現象と規定するのですが、その特徴は原子核の内部で起こる現象であるということです。これに対して、私たちを直接取り巻いている地球上の環境で生じる化学反応や電気反応は、すべて原子核の外にある電子の結合・分離によるもので、中沢氏はこれを「生態圏」の物質現象と呼びます(原子の構造については本ブログ「第2回:原子と分割」をご覧ください)。

原子力発電においては、「太陽圏」の現象である核分裂反応を人工的に起こすのですが、発生したエネルギーが燃料棒の周りの水を沸騰させ、その蒸気がタービンを回して発電が行われます。中沢氏が指摘するように、核分裂によるエネルギーは、いわば原始的ともいえる方法で電気エネルギーに変換されているのです。莫大かつ危険なエネルギーを発し、制御の困難な「太陽圏」の現象を、脆弱なインターフェイスの媒介によって「生態圏」にもちこんだという点に、中沢氏は原子力発電の決定的な問題をみています。中沢氏の言葉によれば、原子力発電は「生態圏の外部に属する核反応の現象を、無媒介的に生態圏の内部に持ち込んだシステム」ということになります。

このことは、原子力エネルギーの歴史的位置をみても明らかです。中沢氏によれば、フランスの文明学者アンドレ・ヴァラニャックはエネルギーの発展段階を七つの「革命」として捉えているそうです。火の獲得と使用という第一次革命から始まり、農耕と新石器、金属の利用、火薬の発明、石炭と産業革命、電気と石油の利用、そして現在進行中の原子力とコンピュータの開発に至るというものです。中沢氏が指摘するように、第六次革命までは「生態圏」の現象、すなわち電子の運動によるエネルギーが用いられてきました。実際、私たちの身の周りには「電子レンジ」「電子メール」など「電子~」が付くモノがあふれていますが、たとえば「原子レンジ」(恐そう…)などというのはありませんね。それほど「太陽圏」に属する原子力エネルギーは、「生態圏」において異質なものなのです。

それではどうすればいいのかというと、私の言い方ではしょって言えば、「太陽圏」のエネルギー生成は太陽に任せておいて、むしろその太陽からのエネルギーを効率的に利用する方法の開発に注力しよう、ということです。そのお手本が、植物による光合成です。中沢氏は、太陽光発電を中心に、太陽からのエネルギーを利用可能な形に変換・媒介する技術の開発を、来るべき「第八次エネルギー革命」と呼んでいます。現在も人類のエネルギー源として重要な位置を占める石炭・石油といった化石燃料は、そもそも原核生物から始まった光合成により変換・固定された太陽エネルギーの媒介物なのです。化石燃料については、その所有権をめぐる問題などもあることから、中沢氏の提案(技術上の問題点はわかりませんが)には説得力があると思いますが、いかかでしょうか。

原子力と資本主義、さらには宗教との関係(中沢氏はもともと宗教学者からスタートしました)や、太陽からの「贈与」という考え方など、この本にはほかにも刺激的な考察がありますが、残念ですがここでは割愛させていただきます。

 

Venezia.jpg

「ヨーロッパ一美しいサロン」(ナポレオン)
サンマルコ広場には、季節を問わず訪れる人が引きも切らない;撮影筆者、2012年1月7日



参考文献:
『新英和大辞典』(研究社)
『哲学・思想辞典』(岩波書店)
中沢新一『日本の大転換』(集英社新書)