第7回:単体の元素

前回、錬金術の主要元素としての硫黄と水銀を紹介しましたが、このように古くから名前が付けられている元素というのは、自然界に単体で存在するものです。

単体というのは、simple substance または elementary substance といって、単一の元素から成る物質のことです。たとえば水素や酸素といった今ではおなじみの基本的な元素であっても、そうした個別の名前が付けられるのは、18世紀以降の近代化学の発達によって、化合物や混合物から単体が分離されてからなのです。自然界に単体でみられる元素には、非金属元素では炭素や硫黄、金属元素では鉄、スズ、鉛、銅、銀、水銀、金などがあります。

ダイアモンドはよく知られているように炭素の単体ですが、鉛筆の芯などに使われる黒鉛も炭素の単体です。同じ炭素の単体でも、ダイアモンドと黒鉛では結晶構造が異なっていて、こういう物質のことを同素体と言います。ダイアモンド diamond という英語は、もっとも硬い物質(ダイアモンドなど)を意味するギリシャ語 adamas → ラテン語 adamas から変化したものです。黒鉛を表わす graphite は、「書く(描く)」を意味するギリシャ語の動詞 graphein に由来します(図の「グラフ graph」も同様)。

炭素を表わす英語の carbon は、18世紀末にフランスの化学者が命名したフランス語 carbone(カルボーヌ)に由来し、そのもとは木炭を意味するラテン語の carbo(カルボ)です。ちなみにスパゲッティのカルボナーラというのはイタリア語で正式には spaghetti alla carbonara となり、「炭焼職人風のスパゲッティ」という意味です。炭焼職人 carbonaro というイタリア語もラテン語の carbo から来ています。もうひとつおまけで、イタリア料理でお馴染みのカルパッチョは、同じくイタリアのルネッサンス期の同名の画家からとられたものです。1950年にヴェネチアのシェフが考案して、生の牛肉の赤みをカルパッチョの絵に特徴的な赤にちなんで名付けたそうです。

話を元に戻して、金と銀について触れておきましょう。まず銀ですが、silver という英語はゲルマン基語、さらにはアジア起源にさかのぼるようです。しかし銀の元素記号のAgは、ラテン語で銀を意味する argentum(アルゲントゥム)に由来します。似た音だと思って調べてみたら、南米の国アルゼンチン Argentina は、「銀の国」ということで命名されたのだそうです。最高の価値をもつものの代名詞でもある金を表わす英語の gold は、ゲルマン基語のさらにもとであるインドヨーロッパ基語で「輝く」を意味する言葉に由来するそうです。しかし、元素記号に用いられているAuは銀と同様、ラテン語で金を表わす aurum(アウルム)から来ています。その形容詞は aureus,-um,-a(それぞれ男性、中性、女性の変化形)となり、たとえば黄色ブドウ球菌は Streptococcus aureus という学名ですので、実は「黄色」ブドウ球菌ではなく「金色」ブドウ球菌という名前なのです。語源を探っていると、ほんとうにいろいろ意外な関係が発見されるものです。

 

参考文献:
『新英和大辞典』(研究社)
桜井弘編『元素111の新知識 第2版』(講談社ブルーバックス)