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語源で超ゴキゲン

語源でナニかがわかる?

この連載では、医療に関連する言葉を中心に「語源」に焦点を当てています。普段何気なく使っている言葉にも、背後には深い意味がある、そんな話題を提供します。<

 第33回 翻訳について (2)

前回は、再連載第1回目で英語の「翻訳translate, translation」という言葉について、ラテン語にさかのぼって調べてみました。今回は少し別の角度から、英語が多くの語を借用しているフランス語を絡めて述べてみることにしましょう。

英語でラテン語由来の言葉はフランス語と共有のものが多いのですが、フランス語ではtranslation(トランスラシオン)という言葉は、(基本的に「移動」という意味では同じですが)現在では法律や数学などの専門用語としてごく限られた範囲でしか用いられません。フランス語で「翻訳」はtraduction(トラデュクシオン、動詞traduire)といいます。〈tra-〉という接頭語は〈trans-〉の異型なので、ラテン語のtraducere(トラードゥーケレ)またはtransducere(トランスドゥーケレ)が語源になります(ducereについては後述)。英語にもtraduceという動詞がありますがきわめて特殊な意味に限定され、transduceは「変換する」「形質導入する」というもっぱら理科系の専門用語になります。

前回translateと語源を同じくする二重語であるtransferについて書きましたが、これと似た言葉にtransportという動詞がありますね。共通の接頭辞〈trans-〉は「越えて」「向こう側に」の意味で、語幹のferreもportare(ラテン語動詞ポルターレ)も「持つ」「運ぶ」(英to carry)の意味なので、transferもtransportも同様の意味となるわけです。いずれにしても、〈trans-〉という接頭辞は、ライフサイエンス系の言葉でも、trans-(s)cribe(転写)、trans-fect(トランスフェクト)、trans-form(変換)、trans-fuse(輸血)、trans-mit(伝播)、trans-locate(転座)、trans-plant(移植)などたくさん目にすることができます。

さて、フランス語で「翻訳」を意味するtraductionを紹介したので、その語幹になっている〈-duce〉、〈-duction〉について取り上げておきたいと思います。ラテン語にはducere(ドゥーケレ、英to lead)という動詞があり、これに前置詞が接頭辞としてついてさまざまな言葉が作られます。intro-duce、pro-duce、re-duceなどお馴染みの言葉がそうなのですが、お気づきかもしれませんが、これらの動詞の名詞形はどれも〈-duct〉〈-duction〉になります。これは、前回紹介したferreの場合と同様に、ducereの過去分詞ductus(ドゥクトゥス)が元になっているのです(もちろん、「管」の意味の英語ductはこのductusに由来します)。

一方で、たとえば英語のconductは動詞としても名詞としても使われますが、上記の言葉と同様にラテン語conducereからconduceが動詞、conductが名詞となるのが本来なのに、conduceが特殊な意味に限られ、conductが動詞と名詞の「二刀流」になるといった混同(?)が生じることもあります。ややこしいのは英語のeducateです。これはラテン語のe-ducare(e=ex、~からの意)に由来しますが、このducare(ドゥカーレ)というのはこれまで述べてきたducere(ドゥーケレ)とは違う言葉なのです。英語にはeducateとeduce(あまりお目にかかりませんが)という2つの言葉があり、それぞれラテン語のeducare(エードゥカーレ)とeducere(エードゥーケレ)からきているのです。もっとも、前者は後者から派生した言葉のようで、意味は似ていますが変化が違うのです。このため、英語のeducate、educationは、ラテン語educareの過去分詞educatusに基づいた言葉なのです。

今回はだいぶん細かい地味な話になってしまったので、次回は少し楽しい(?)話にしたいと思います。